金沢地方裁判所 昭和41年(行ウ)4号 判決 1970年9月04日
金沢市高畠町イ五〇番地
原告
ミルペツト飲料株式会社
右代表者代表取締役
千田晃
右訴訟代理人弁護士
新崎武外
金沢市彦三一丁目一五番地五号
被告
金沢税務署長
谷口直二
右訴訟指定代理人
松沢智
大榎春雄
笠原昭一
鳥居三郎
戸田志郎
右当事者間の昭和四一年(行ウ)第四号法人税決定処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、双方の申立
一、原告
(一) 被告が昭和三九年三月三〇日付でなした原告に対する
(1) 昭和三五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について所得金額を一六、四一〇、〇一〇円とする旨の再更正処分は、所得金額八五三、九九〇円超える部分につき
(2) 昭和三六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税について所得金額を一三、五八二、七六五円とする旨の再更正処分は、所得金額三九三、九五八円を超える部分につき
いずれもこれを取消す。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文と同旨。
第二、双方の主張
一、請求原因
(一)(1) 原告がその昭和三五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和三五事業年度」という。)の法人税について法定の申告期限内に所得金額は五四六、一〇〇円である旨の確定申告書を被告あてに提出し確定申告したところ、被告は昭和三六年六月二四日付で所得金額を八〇一、二〇〇円とする旨の当初更正処分を行い、次いで昭和三八年一一月二六日青色申告承認を取消したうえ昭和三九年三月三〇日付で所得金額を一六、四一〇、〇一〇円とする旨の再更正処分を為した。
(2) また、原告がその昭和三六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「昭和三六事業年度」という。)の法人税について法定の申告期限内に所得金額は二一八、六〇〇円である旨の確定申告書を被告あてに提出し確定申告したところ、被告は昭和三七年四月三〇日付で所得金額を三九三、九五〇円とする旨の当初更正処分を行い、次いで昭和三九年三月三〇日付で所得金額を一三、五八二、七〇〇円とする旨の再更正処分を為した。
(二) 原告は右各再更正処分(以下「本件各処分」という。)につき昭和三九年五月六日訴外金沢国税局長に対しそれぞれ審査請求したところ、同局長は昭和四〇年一二月二二日付で右各審査請求を棄却する旨の裁決を為し、同月二五日原告に裁決書騰本の送付通知書を送達してきた。
(三) しかしながら本件各処分はいずれも原告の所得金額を過大に決定したものである。即ち、
(1) 昭和三五事業年度につき
(イ) 訴外千田晃に支払つた特許権使用料 五、六〇三、二〇〇円
(ロ) 訴外合同酒精株式会社に昭和三五・三六事業年度に売渡した商品(ミルペツト)のうち品質不良として返品され廃棄した分の二分の一相当額 九、九五二、八二〇円
(2) 昭和三六年事業年度につき
(イ) 前同特許権使用料 四、七一三、六〇〇円
(ロ) 前同返品相当額 九、九五二、八二〇円
を損金として控除すべきである。
よつて本件各処分は違法であるから、原告申立欄記載のとおりの裁判を求める。
二、請求原因事実に対する被告の答弁および主張
(答弁)
(一)、(二)項は認めるが、(三)項は争う。
(主張)
(一) 原告は清涼飲料水の製造を業とする資本金八〇〇万円の同族会社であるが、昭和三五・三六事業年度において、架空の大阪物産あるいは休業法人日東香料化学株式会社から原料・資材を仕入したかの如く装い、また不良品・検査不合格品の売上除外を行つて得た資金を簿外預金するなどの方法によりその所得の大部分を仮装隠ぺいした。
そこで、被告は原告主張のとおり右各事業年度の法人税につきその所得金額を適法に再更正した。
(1) 昭和三五事業年度分
〈省略〉
〈省略〉
右別口利益金額の計算根拠は次のとおりである。
〈省略〉
(2) 昭和三六年事業年度分
〈省略〉
右別口利益金額の計算根拠は次のとおりである。
〈省略〉
〈省略〉
(二) (特許権使用料について)
(1) 原告主張の特許権の出願公告がなされたのは昭和三六年五月二二日であり、特許原簿に登録されたのは昭和三六年一〇月一〇日であるから昭和三五事業年度には右特許権は存在しなかつた。
また右登録後においても、原告と特許権者たる訴外千田晃との間に右特許権の実施に関する契約が締結された事実はなく、帳簿類にも昭和三六年度の一三〇万円(これは被告も認めている)以外に原告主張の如き特許権使用料の計上がない。従つて、昭和三五・三六事業年度において原告主張の特許権使用料支払の事実はない。
(2) 仮りに特許権使用料名目の支払があつたとしても、その実質は特許権使用名義に藉口してその所得のうちから旧債務を返済したに過ぎないと解すべきであり、また特許権使用料の支払が仮装でないとしても、それは原告が同時に千田晃から同額の贈与を受けその資金を旧債務の返済に充てたものであるから、原告の所得金額にはなんらの影響を生じないものというべきである。
(三) (返品の処理について)
昭和三五・三六年度中に原告と合同酒精株式会社との間で売買契約の一部が解除されたり返品が確定したと認められる事実はない。仮に売買契約が解除され返品が確定したとしても、税法上は勿論のこと会計法則上も現実に返品がなされた事業年度の損失として処理すべきものであつて、決算を終了した既往の事業年度に遡つて処理すべきではないから、返品総額を単純に両事業年度に等分して各年度における損失として計上することは許されない。
三、被告の主張に対する原告の答弁および反論
(答弁)
(一)項は認める。
(二)項中、特許公告並びに登録の日がいずれも被告主張のとおりであり、原告主張の特許権使用料の記帳がないことは認めるが、その余の事実は争う。
(三)項は争う。
(反論)
(一) (特許権使用料について)
(1) 原告は昭和三三年九月倒産したものであるところ、千田晃の発明は特許権が付与されることが確実で工業化の価値が高いものであつたので、公告前の昭和三四年一二月頃原告と合同酒精株式会社との間でその工業化契約が成立し、その結果原告会社再建の見透しが立つに至つた。そこで原告会社取締役会において、売上高の一〇パーセント特許権使用料として千田晃に支払うことを決議して千田晃との間で契約書を取交し、これに基づき昭和三五事業年度には五、六〇三、二〇〇円を、昭和三六事業年度には被告において認容した一、三〇〇、〇〇〇円の外に四、七一三、六〇〇円を同人に支払つた。
なお、右の契約書は金沢国税局により押収された。
(2) 右支払の事実を記帳しなかつたのは次の事情による。
即ち、原告が倒産当時負つていた旧債務約三〇、〇〇〇、〇〇〇円余りの繰越計上を被告において否認したので、原告はやむなく千田晃に支払うべき右特許権使用料を右旧債務の返済に充てることにしたが、それを記帳すれば千田に莫大な所得税が課せられ結局返済資金が減少することになつて旧債権者らに迷惑がかかる結果となることを慮つたからに外ならない。
(二) (返品処理について)
売買契約の目的物に瑕疵があり、ために一部解除されればその結果は遡及しその分については売買がなかつたことになるのだから、解除返品分を売上計上することは許されないところである。さもなければ利益のないところに課税することになり、国家は課税せんがだめに仮空の販売を販売と認める結果とならざるを得ず、よつて被告の主張は不当である。
第三、証拠関係
一、双方の提出援用した証拠
(一) 原告
甲第一号証の一・二、二号証の一・二、三ないし五一号証、五二号証の一・二、五三号証の一・二・三、五四号証の一・二、五五号証の一・二、五六号証。
証人鷹栖宏、同高倉豊三の各証言、原告会社代表者尋問の結果。
(二) 被告
乙第一ないし三号証。証人中河吉春の証言(一・二回)。
二、双方の書証に対する認否
(一) 原告
乙号各証の成立を認める。
(二) 被告
甲第一号証の一・二、二号証の一・二および五六号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一、請求原因(一)・(二)項並びに被告の主張(一)項の各事実については当事者間に争いがない。
二、そこで本件各再更正処分に係る原告の各所得金額中からその主張の特許権使用料及び返品分相当額を損金として控除すべきか否かを検討する。
(一) 特許権使用料について。
千田晃の特許権の出願公告が昭和三六年五月二二日であり、特許原簿に登録されたのが翌年一〇月一〇日であることは当事者間に争いがなく、よつて昭和三五事業年度には右特許権は未だ存在していなかつたことが明らかである。
ところで、右公告前に千田晃と原告との間でその主張の如き特許権使用料支払契約が締結されたか否かについては、証人高倉豊三並びに原告会社代表者はこれを肯定する供述をしているが、証人中河吉春の証言(一回)によれば、昭和三七年一一月に金沢国税局係官が原告会社を査察調査した際に押収した一件書類中には右証人らの指摘する契約書類あるいは原告会社取締役会の議決書類等は一切存在しなかつたことが認められ、右証人高倉豊三並びに原告会社代表者の供述は右事実に照らすとたやすく信用し難く、他にこれを首肯させるに足る証拠はない。また証人中河吉春の右証言に成立に争いのない甲第一・二号証、乙第一・二号証を併せ考えると、原告会社の昭和三六事業年度の決算報告書には被告において認容した一、三〇〇、〇〇〇円以外には特許権使用料の計上がなくかつ原告の主張によれば特許権使用料の算定の基礎となるべき合同酒精株式会社に対する製品売上高を全額計上しながら特許権使用料については全く計上せず簿外と為すべき合理的理由がみあたらないこと、本件各再更正処分に対する異議申立・審査請求並びに本件各係争事業年度に関する法人税法違反被告事件(金沢地方裁判所昭和三九年(わ)第二三九号)において、原告は特許権使用料の申立・主張をなんら行つていないことが認められる。
以上の各事実に照らすと、昭和三五・三六事業年度において原告主張の如き特許権使用料の支出の事実がなかつたことを推認することができ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
そうすると、被告の主張((二)の(1)は理由があり、被告が原告主張の特許権使用料を当該各事業年度における損金として控除しなかつたことに違法はない。
(二) 返品分相当額について。
原告は返品は売買契約の解除であるから売買時に遡及して売上高から返品分を減額処理すべきである旨主張するが、右主張は独自の主張であつて到底採用し難く、売買商品に品質不良などの瑕疵があつたことにより返品を受けた場合には、会計法則並びに税法上、その実質において委託販売と同視し得る場合など特段の事情の認められる場合を除き、返品発送の通知を受けた日もしくは返品を現実に受取つた日を含む事業年度における損金として処理すべきであつて、それ以前の売買時の事業年度に遡及してこれを減額処理することは許されないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、証人鷹栖宏の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三・四号証および証人高倉豊三・同鷹栖宏の証言、原告会社代表者尋問の結果によると、原告が合同酒精株式会社に対し昭和三五・三六事業年度に販売した商品「ミルペツト」のうち原告の主張に添う金額相当分が昭和三七年五月以降翌三八年一二月までの間に品質不良のため返品され、その後原告においてこれを廃棄処分に付したこと、昭和三六年四月から販売した「ミルペツト」のうちに品質不良品がある旨のクレームをつけられてはいたが、原告が合同酒精株式会社から不良品の返品発送の通知を受けたのは早やくとも昭和三七年四月頃であることが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
また弁論の全趣旨に徴すれば、原告と合同酒精株式会社間の本件商品の売買には前記の委託販売と同視し得べき事情その他特段の事情がなかつたことが明らかである。
そうとすると、被告の主張((三))は理由があり、被告が原告主張の返品分相当額を当該各事業年度における損金として控除しなかつたことになんら違法はない。
三、よつて、本件各再更正処分はいずれも適法であつて原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 至勢忠一 裁判官 北沢和範 裁判官 川原誠)